担保権の種類 日本とアジア各国(シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナム)の違い
担保権の種類 日本とアジア各国(シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナム)の違い
担保権の種類は、それぞれの国において、その種類や成立要件その他の効力が異なります。
例えば、日本の法律上は、抵当権、質権、留置権、先取特権、譲渡担保権などが担保権の種類として存在し、担保権の設定方法や効果が法律、又は判例によって決められています。
一方で、例えば英国やオーストラリア、シンガポールなどの英国法をベースとしている国では、Morgages モーゲージ、Pledges プレッジ、Liens リーエンズ、Charges チャージズ、Assignment アサイメント等のコモンロー上の担保設定方法として認められており、必ずしも日本法上の担保概念と対応してはいません。
また特に動産や不動産については、当該有体物に対する担保権の有効性等は、日本の法適用通則法13条で定めるように、目的物の所在地法により決定することが国際私法上の一般的なルールになっています。
したがって例えば、アジア国内における不動産に担保権を設定しようとする場合、当該不動産に対する担保権は、原則として当該不動産が所在する国の法律によって認められた不動産担保権を設定する必要があります。
そこで担保付シンジケート・ローンを組成する場合には、当該担保権の所在国の法律事務所とコンサルティング契約をした上で、当該担保権の所在国における担保法生の調査及び当該所在国法に基づく担保権の設定が必要になるのが原則です。
シンガポールの担保権
担保の種類も日本とシンガポールで異なります。シンガポールにおける主な担保の種類は、以下の通りです。なお、以下では、Personal SecurityであるGuaranteeやIndemnityは除外してご説明します。
Mortgage:
「抵当権」の訳語がよく用いられますが、日本法下における抵当権とは違いがあります。
Charge:
日本法下でこれに相当する担保権がないため、ちょうど良い訳語がありません。そのため、無理やり訳さなければならない場合には「担保権」といった一般的な用語で置き換えられていることが多いようです。
Pledge:
日本法下における質権に類似することから、「質権」の訳語が用いられることが一般的のようです。
Lien:
日本法における「留置権」及び「先取特権」の双方に類似した担保権を包含するため、訳語を用いず英語のままとするか、あえて日本語にする場合でもカタカナで「リーエン」と表記しているようです。ただし、「留置権」または「先取得権」のいずれか一方のみに類似した担保権を指している場合には、具体的な担保権の内容に応じて「留置権」または「先取特権」の訳語が当てられることもあります。
MortgageとChargeは、担保権者による担保目的物の占有を必要としない担保であり、PledgeとLienは、担保権者による担保目的物の占有(事実上の占有だけでなく、解釈上の占有も含めて)が重要な要素となる担保です。以下、順に詳しくご説明いたします。
(1)Mortgage
コモンローにおけるMortgageは、担保目的物の所有権が担保権者へ移転するものの、当該移転は被担保債権が完済された場合における担保権設定者の請戻権の制約に服するという構成を取ります。これは、所有権の移転を伴わない日本の抵当権の概念とは異なっています。また、シンガポールにおけるMortgageは、不動産以外の財産(動産や債権など)に対しても設定できる点で、日本における抵当権と異なっています。
ただし、シンガポールでも、担保目的物が登記された不動産である場合には、コモンローのMortgageではなく、Land Titles Act (Cap. 157)下の登記によるMortgageが適用されます。しかも、Land Titles (Amendment) Act 2001の制定により、事実上シンガポールの全ての不動産はLand Titles Act (Cap. 157)の適用下で、登記を通じてのみ権利移転しうることになっています。同法では、登記された不動産への抵当権設定は、所有権の移転としては機能せず、担保権の付与としてのみ機能するとされており、その意味では日本の抵当権と違いはなくなっています。(次回へ続く)
(2)Charge
Chargeは、Mortgageと異なり、担保目的物の所有権は担保権者へ移転しません。Chargeは、無担保債権者に優先して、資産およびその対価を被担保債権の支払に充当する権利を担保権者に付与する合意に基づく担保権です。コモンローの下では、Chargeは、Mortgageほど広範でないとされてきましたが、実務上は、Chargeの設定契約において、コモンロー下での権利および契約的に手当された権利が全体としてMortgageの場合に類似した権利内容となるようにChargeの内容を規定することが通常であり、この点に関する両者の区別はそれほど重要ではないと言われています。ただし、Chargeは、日本にはない概念であるEquitable Security Interestに分類されおり、担保目的物に対して法的権利を取得した後続の第三者に劣後する可能性がある点で、Legal Mortgageとの違いは残っています。
また、実務上、Chargeは、Fixed ChargeとFloating Chargeの2種類が用いられます。Fixed Chargeは、特定の資産に対して設定され、設定者による当該資産の自由な処分はできなくなります。これに対して、Floating Chargeは、変動し得る不特定の資産に対して設定され、担保目的物の確定事由の発生により、Floating ChargeからFixed Chargeへと変わるまでの間は、担保権設定者は、通常の業務過程において当該資産を処分することができます。Floating Chargeは、担保権設定者の事業を麻痺させることなく債権者に対して担保を提供する手段として有効ですが、Fixed Chargeに比べて、債権者の保護で劣る面があります。例えば、Floating Chargeでは、上記のように自由処分が認められているため、担保目的物に対して、Floating Chargeの担保権者よりも優先順位を有する権利を第三者が取得するかもしれません。また、Floating Chargeは、シンガポールの会社法下では、労働者の給与などの優先債権に劣後すると規定されています。
Chargeは、不動産に対しても設定することが可能ですが、実務上はまれだと言われています。Chargeは、動産や債権に対しても設定することができます。
(3)Pledge
Pledgeは、担保権設定者が担保目的物の占有を担保権者へ移すことによって設定されます。担保目的物の所有権は担保権設定者に残ったままですが、担保権者は占有者として一定の法的な権利を得ることになります。Pledgeを有する担保権者は、被担保債権が完済されるまで担保目的物を占有し続けることができますし、また、一般には、債務が支払われなかった場合に、担保目的物を処分して、その対価を被担保債権の弁済に当てることもできるとされています。
Pledgeの基本的な概念は、日本における質権の概念によく類似しているように思われます。
(4)Lien
Lienは、被担保債権が完済されるまで担保目的物を留置する権利を授けるものです。Lienの場合は、Pledgeとは異なり、法律または契約書において別途定めがある場合を除き、担保目的物を処分して、その対価を非担保債権の弁済に当てることはできません。また、Pledgeでは、担保設定目的で対象物の占有が移転されるのに対して、Lienの場合には、保護預かりや修理といった別の目的で占有の移転が行われるという違いもあります。
このように、Lienは、日本における留置権や先取特権に類似した性質を持っています。






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